「夜中の大きないびきを家族に指摘された」「しっかり寝たはずなのに、日中どうしようもなく眠い」。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)やいびきによる悩みは、生活の質(QOL)を大きく低下させます。特に、車の運転や重要な会議が多い方にとって、日中の激しい眠気は深刻な問題です。
睡眠時無呼吸症候群:
睡眠中に10秒以上、呼吸が停止する状態または浅くなる状態が繰り返し起こる睡眠障害です。
そんな悩みを抱える人が増える中、治療の選択肢として「マウスピース(スリープスプリント)」が注目されています。
マウスピース治療は、歯科医院で手軽に始められる効果的な方法です。しかし、市販品とは全く異なり、専門医による診断と精密な作成が欠かせません。
この記事では、睡眠時無呼吸症候群の治療で使われるマウスピースについて、その効果や仕組み、費用、保険適用の条件まで、網羅的に解説します。
- 治療用マウスピースと市販品の違い
- マウスピース治療のメリットデメリット
- 保険適用で作成するための条件と費用相場
- マウスピース作成の具体的な流れと注意点
睡眠時無呼吸症候群におすすめのマウスピースとは?いびき治療にも効果的

マウスピースは「スリープスプリント」とも呼ばれ、睡眠時無呼吸症候群やいびきの治療で使われます。
就寝中に装着することで、下がった舌や下顎を前方に少し突き出させた状態で固定し、喉の奥にある気道(空気の通り道)を広げます。
気道を確保することにより、いびきの原因となる喉の粘膜の振動や、気道の閉塞による無呼吸を防ぐ効果が期待できるでしょう。
CPAP(シーパップ)との違い
睡眠時無呼吸症候群の代表的な治療法に、CPAP(持続陽圧呼吸療法)があります。
CPAPは、睡眠中に鼻に装着したマスクから圧力をかけた空気を送り込み、気道を広げて無呼吸を防ぐ装置です。
CPAPとマウスピースは、どちらも気道を確保するという目的は同じですが、アプローチが異なります。
CPAPの圧迫感が苦痛で治療を断念してしまった人でも、マウスピースなら治療を継続できる場合もあります。
| マウスピース治療 | CPAP治療 | |
| 仕組み | 下顎を前方で固定し、気道を広げる | 鼻に装着したマスクから空気を送り込み、気道を広げる |
| 対象 | 軽症~中等症の閉塞性SAS、いびき | 中等症~重症の閉塞性SAS |
| メリット | ・持ち運びが便利で、出張や旅行の時も使える ・電源が不要 ・音がしない ・比較的安価(保険適用の場合) | ・治療効果が高い ・重症例にも対応できる |
| デメリット | ・重症例には効果が限定的 ・顎や歯に違和感が出ることがある ・定期的な調整が必要 | ・装置が大きく、持ち運びが不便 ・マスクの圧迫感や空気の乾燥が気になることがある ・作動音がする |
CPAPは無呼吸治療に効果的ですが、継続できなければ意味がありません。マウスピースは、特に軽症から中等症の人や、CPAPがどうしても苦手な人にとって優れた代替案となります。どちらの治療法がご自身に合っているか、まずは専門医に相談することが重要です。
睡眠時無呼吸症候群向けマウスピースとスポーツ用・市販用の違いとは?
マウスピースと聞くと、スポーツ用やドラッグストアで売られている歯ぎしり防止用を思い浮かべる方もいるでしょう。しかし、これらは治療用のマウスピースとは全くの別物です。
| 種別 | 詳細 |
| 市販品 | 衝撃から歯や顎を守ることが目的。 |
| スポーツ用 | 既製品をお湯で温めて成形するタイプが主流。 フィット感が悪く、気道を確保する精密な調整は不可能。 |
| 治療用 | 歯科医師が精密な歯型を採り、気道を確保できるようミリ単位で調整して作成するオーダーメイドの医療機器。 |
安価な市販品を自己判断で使用すると、効果が得られないばかりか、顎関節症を悪化させたり、歯並びを乱したりするリスクがあります。
顎の関節や、顎を動かす筋肉に痛みが生じたり(開口時痛)、口が開けにくくなったり(開口障害)、口を開け閉めする際に「カクカク」と音がしたり(関節雑音)する状態のことです。
治療目的の場合は、必ず医療機関で診断を受けた上で、ご自身の口腔内に合わせて作成したマウスピースを使用してください。
治療目的のマウスピースは、歯科医師が一人一人に合う精密な型取りと、調整を行うことで気道確保の効果を最大化します。市販品を自己判断で使用すると、顎関節症や歯並びを悪化させ別の治療が必要になる可能性があります。治療目的であれば、必ず医療機関で作成しましょう。
睡眠時無呼吸症候群のマウスピース治療の効果

歯科医院で作成するマウスピースは、下顎を数ミリ前方に移動させることで、舌の根元が喉の奥に落ち込むのを防ぎます。
これにより、狭くなった気道が物理的に広がり、睡眠中の呼吸がスムーズになります。
その結果、以下のような効果が期待できます。
- いびきの音量が小さくなる、または消失すること
- 睡眠中の無呼吸・低呼吸の回数が減少すること
- 日中の眠気や倦怠感が軽減されること
- 集中力や記憶力が改善されること
一方で、デメリットやおすすめしない人もいるので、詳しく解説します。
マウスピース治療のメリット・デメリット
手軽で効果的なマウスピース治療ですが、メリットとデメリットの両方を理解しておくことが大切です。
メリットは以下の通りです。
- 手軽で携帯性に優れている
- 電源が不要
- 違和感が少ない
- 保険適用が可能
マウスピースは口の中に装着する小型の装置で、持ち運びがしやすい点が特徴です。CPAPとは異なり電源を必要としないため、場所を選ばず使用できます。
そのため、出張や旅行が多い人でも、無理なく治療を継続できるという大きなメリットがあります。
また、CPAPのマスクや空気圧が苦手な人においても、マウスピースなら快適に使用できることがあります。
一定の条件を満たせば健康保険が適用されるため、費用を抑えて治療を始めることが可能です。
一方、デメリットは以下の通りです。
- 適応が限られる
- 顎や歯への負担
- 定期的な調整が必要
- 副作用の可能性
マウスピースによる治療は、重症の睡眠時無呼吸症候群では十分な効果が得られないことがあります。適応に限りがあることは理解しておきましょう。
また、装着初期には顎や歯に痛みや違和感を覚えることがあり、口腔内の状態に応じて定期的な調整が求められます。
さらに、長期間の使用によっては、まれに噛み合わせが変化するなどの副作用が生じる可能性もあります。
マウスピース治療は有効なケースが多い一方、適応外や副作用のリスクも存在します。特に重症の睡眠時無呼吸症候群や顎関節症のある人は注意が必要です。マウスピースは使用状況によって治療効果が大きく変わるので、必ず専門医の診断と定期的な調整を受けましょう。
マウスピース治療がおすすめな人・向いていない人
自分の症状やライフスタイルが、マウスピース治療に適しているか確認してみましょう。
おすすめな人は以下の通りです。
- 軽症~中等症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群と診断された人
- 大きないびきに悩んでいる人
- CPAP治療が身体に合わなかった方、または継続できなかった人
- 出張や旅行が多い人
- 比較的安価に治療を始めたい人
マウスピースによる治療は、軽症~中等症の睡眠時無呼吸症候群の人や、大きないびきに悩む人、CPAP治療が合わなかった人に適しています。
また、出張や旅行が多い人、費用を抑えて手軽に治療を始めたい人にもおすすめです。
一方、向いていない人は以下の通りです。
- 重症の睡眠時無呼吸症候群の人
- 残っている歯が少ない、または総入れ歯の人(マウスピースを固定できないため)
- 重度の歯周病や虫歯がある人(先に治療が必要)
- 顎関節症の症状が強い人
- 重度の鼻閉(鼻詰まり)がある人
- 中枢性睡眠時無呼吸症候群の人
マウスピースによる治療は、重症の睡眠時無呼吸症候群や中枢性睡眠時無呼吸症候群の人には適していません。
脳の呼吸中枢の機能異常により、睡眠中に呼吸の指令が送られなくなり無呼吸状態になる病気です。
また、残っている歯が少ない人や総入れ歯の人、重度の歯周病や虫歯がある人は、マウスピースを固定できないため治療の対象外となります。
さらに、顎関節症の症状が強い人や、重い鼻詰まりがある人にも適用は難しいとされています。
睡眠時無呼吸症候群のマウスピースの種類と費用

治療用マウスピースは、大きく「一体型」と「分離型」の2種類に分けられます。費用は保険適用の有無によって大きく異なります。
| 種別 | 金額 |
| 保険適用(3割負担) | 約15,000円~30,000円 |
| 自費診療の上下顎一体型 | 約30,000~50,000円 |
| 自費診療の上下顎分離型 | 10万円以上 |
上下顎一体型
上下顎一体型は、上下の歯にはめる部分が一体となっているタイプで、構造がシンプルなため比較的安価です。一般的に、保険診療ではこの一体型が使用されます。
ただし、デメリットとして下顎を突き出す量の微調整が難しいという側面が挙げられます。
上下分離型
上下分離型は、上下のパーツが分かれており、特殊なネジやプレートで連結されているタイプです。こちらは自費診療になるため費用は高額になります。
下顎の前方への移動量をミリ単位で細かく調整できるため、高い治療効果と快適なフィット感が期待できます。
マウスピース治療は、症状の程度や顎の形態に応じて選ぶことが大切です。一体型は保険適用で利用しやすい反面、細かな下顎位置の調整には限界があります。分離型は高額ながら、微細な調整が可能で、高い治療効果と快適性が期待されるので、予算に合わせて歯科医師に相談しましょう。
睡眠時無呼吸症候群のマウスピースは保険適用される?

睡眠時無呼吸症候群やいびきの治療用マウスピースは、一定の条件を満たせば保険適用で作成できます。保険適用を受けるためには、以下のステップが必要です。
- 医科(内科・呼吸器内科・耳鼻咽喉科など)を受診
- 終夜睡眠ポリグラフ(PSG)検査などの精密検査を受ける
- 医師から「睡眠時無呼吸症候群」の確定診断を受ける
- 診断した医師から、歯科医院宛の「紹介状(診療情報提供書)」を発行してもらう
保険適用を受ける際には、まず内科、呼吸器内科、耳鼻咽喉科といった病院を受診し、終夜睡眠ポリグラフ(PSG)検査などの精密検査を受けて、睡眠中の状態を詳しく調べてもらいましょう。
脳波、心電図、眼球運動、呼吸、酸素飽和度などの生体活動を1晩にわたって測定し、睡眠時無呼吸症候群を含む睡眠障害を診断するための精密検査です。
検査の結果、医師から「睡眠時無呼吸症候群」と診断された場合は、歯科医院宛の「紹介状(診療情報提供書)」を発行してもらいます。この紹介状をもとにマウスピースを作成することで、健康保険が適用されます。
つまり「いびきが気になるから」といった理由で直接歯科医院を受診しても、保険適用にはなりません。まずは医科で専門的な検査・診断を受けることが必要になります。
マウスピース作成の流れと治療の進め方

医科からの紹介状を受け取った歯科医院は、次のような流れでマウスピースの作成と治療を進めていきます。
マウスピースは歯科でどう作る?
以下の流れで進めていきます。
医科からの紹介状をもとに、問診や口腔内のチェックを行います。虫歯や歯周病の有無、顎関節の状態などを確認し、無呼吸症候群やいびきの症状に合わせた最適な治療プランを提案します。
マウスピース作製に必要な精密データを取得します。レントゲン撮影や歯型の採取、噛み合わせの記録などを行い、歯科医が個々の口腔内に合ったマウスピース作りの準備をします。
歯科技工所でオーダーメイドのマウスピースが完成後、実際に装着してフィット感や噛み合わせを確認します。必要に応じて微調整を行い、快適に使用できる状態に仕上げます。完成までの期間は通常2〜4週間です。
治療開始後も、1〜3か月ごとの定期通院が推奨されます。マウスピースの状態や口腔内の変化、治療効果を確認し、必要に応じて調整やメンテナンスを行います。これにより、長期的に無呼吸症候群やいびきの改善効果を維持できます。
マウスピースが作成できないケースもあるので注意
前述の「向いていない人」に該当する場合、マウスピースの作成ができない、または推奨されないことがあります。
- 残存歯数が20本未満の場合(マウスピースを安定させられないため)
- 重度の歯周病で歯がぐらついている場合
- 治療していない大きな虫歯がある場合
- 顎関節に痛みや開口障害がある場合
残存歯数が20本未満の場合は、マウスピースを安定して装着できないため、作成ができません。重度の歯周病で歯がぐらついている場合においても、同様に対応できないケースがあります。
また、治療していない大きな虫歯がある場合や、顎関節に痛みや開口障害がある場合は、まず治療を優先する必要があります。
就寝時マウスピースの使用・お手入れ方法

作成したマウスピースの効果を維持し、長く清潔に使うためには、日々の取り扱いが重要です。
装着中の注意点
マウスピースを使い始めたばかりのころは、唾液の量が増えたり歯や顎に圧迫感を感じたりすることがあります。特に朝、マウスピースを外した直後は、噛み合わせに一時的な違和感を感じることがあります。
通常は短時間で元に戻り、数日~1週間程度で慣れていきますので、様子を見ながら継続して装着してみましょう。
ただし、装着開始から1週間以上経っても強い痛みが続く場合や、顎に異常を感じる場合は無理に使用を続けず、歯科医院に相談してください。
洗浄・保管方法の基本
毎日の洗浄
起床後にマウスピースを外したら、まず流水で大まかな汚れを洗い流します。その後、毛先のやわらかい歯ブラシで優しくこすり、歯垢や汚れを取り除きましょう。
※歯磨き粉は研磨剤によって細かい傷がつく可能性があるため、使用は控えるか、マウスピース専用のクリーナーを使うのがおすすめです。
定期的な除菌
週に数回は、マウスピース専用の洗浄剤に浸けて除菌することで、臭いや変色を防ぐことができます。清潔を保つことで、口腔内の健康維持にもつながります。
乾燥と保管
洗浄後はしっかり乾燥させ、専用ケースに入れて保管します。紛失や破損を防ぎ、マウスピースを長持ちさせるポイントです。
熱湯での消毒は変形の原因になるため、絶対に避けてください。正しい手入れをすることで、無呼吸症候群やいびき対策の効果を最大限に維持できます。
睡眠時無呼吸症候群のマウスピースに関するよくある質問
ここでは、睡眠時無呼吸症候群や、いびき用のマウスピースに関するよくある質問をまとめました。
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本記事では、睡眠時無呼吸症候群やいびきに対するマウスピース治療について、その仕組みから費用、作成の流れまでを詳しく解説しました。
マウスピース治療は、CPAPが合わなかった人や、出張・旅行が多い人にとって、手軽で続けやすい有効な選択肢の一つです。保険適用の条件を満たせば、費用負担を抑えて治療を始めることもできます。
市販品だけに頼るのではなく、「医科での診断」と「歯科での精密な作成」という正しいステップを踏むことがより適切で効果的な治療への第一歩となります。


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